Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル 番外編

  さくら便り・ひらひら
 



じりじり少しずつの春めきを、
無情の冷たい雨が大きくご破算にしながらも、
それでもそろそろ、
朝晩もさほど厳しく冷え込むことはなくなって来て。
何より、日の出がぐんぐんと早くなり、
さえずりの声だけでなく、障子越しに窓を横切る陰ででも、
小鳥たちから“早く起きな”と誘われているよな、
そんなお目覚めが増えてきた。

 「…あれ? くうちゃん?」

早朝の屋敷の中へ、明るさと風を入れるため。
家人らが次々と起きた端から、
板戸や妻戸、蔀
(しとみ)を開けて回っていた書生の瀬那くん。
お館様の居室でもある広間へ運ぶ足を止めたのは、
そちらから とてとてやって来た小さな影に気がついたから。
まだ眠いのか、ちょっぴりむくんだお顔をし、
お袖から覗く小さなお手々で、目許から頬から もしょもしょ擦ってる。
そんな仕草が何とも稚
(いとけな)い、ちょこりと小さな、愛らしい和子。

 「せ〜な。」
 「はい、おはよう。」

向こうさんでもこちらに気づいて、
ててて・とたとたとお廊下の板張りを小さく鳴らし、
あとちょっとの距離を小走りに寄って来ると。
ぱふり、こちらの懐ろへお顔を埋めるよにしてしがみつく。
見下ろした頭には、
手触りのいい甘い栗色の髪と、
その間から覗く三角に立ったお耳。
産毛みたいな毛並みを乗っけ、頼りないほどやわらかいお耳が、
寝癖でもついたものか、へちょりと寝かかっており。
触りたい衝動を何とかこらえると、
そこは避けてのよしよしと、真ん丸な頭を撫でて差し上げれば、

 「〜〜〜。」

う〜んとも むうんともつかないお声を出しながら、
お顔をグリグリともみ込むように押しつけて来るのだが。
さしたる力ではないところが擽ったくて、

 「どうしたの? まだお陽様が出たばかりだよ?」
 「う〜。」

裸足じゃあ寒いでしょうにと、
ついつい見たままの姿へと感慨が出てしまうのだが、

 『あやつは見た目が裸のところにも毛並みを載せておるからの。』

頭には三角のお耳が立ってるし、
小さな背中をはたくよに、したりふわふわと泳ぐは、ふさふさのお尻尾。
屋敷の結界のせいで隠し切れないそれらが示すよに、
実は“天狐”という精霊の仔で。
人の目には衣紋を着ているように見えるだけ、
寝間着にしている小袖のみという姿でも、
実はほかほかな毛並みをまとっているので、
寒さには強く、こうして抱えてるとこっちまで暖まるほど。
そんなくうちゃんを、まだ眠そうなのにねと見下ろせば、

 「おやかま様は?」
 「あ。」

ああそうだった。
昨夜の遅くのいつごろか。
此処と同じ地脈の上のどこかにて、
何やら妖しき気配が蠢いたらしく。
セナの寝ていた寝間まで、
咒弊を鳥の形に切った式神を寄越してから、
こっそりお出掛けになられたのだったと思い出す。
昨夜は久々のお泊りで、
同じ寝間にて添い寝をしていた くうちゃんは、
それへ気がつけないほどよく眠っていたものか。
目覚めとともに蛭魔の不在に気がついて、
行方を捜しての此処へまで、とたとた出て来たに違いない。

 “でも、くうちゃんが気がつかなかった程度の気配だったら。”

あまり大きくもなく強くもない手合いだった筈だろに。
まだお戻りじゃあないなんてと、
今頃になってセナも不穏な何かしら感じ始めたその拍子、

 「帰ったぞ。」
 「あ…vv」

相変わらずに気短かなところが出たか、
それとも家人を騒がせたくはなかったか。
表の門からじゃなくの庭へ直接、
その姿を現したは、彼らが御主の術師殿。
頭に冠した金色の髪が、明るい空には淡く馴染んで。
寒さ避けにと引っ張り出したか、
薄いが空気をたっぷり含んで暖かな、
羊の毛で織った“すとーる”を、
細い肩口にぐるぐると、外套のように巻きつけておいで。
濃色のそれだったので、てっきり。
いつもの倣いで黒の侍従さんの狩衣を借りたのかと思ったが、

 「葉柱さんはご一緒ではなかったのですか?」
 「…ま〜な。/////////

  ……… おやや?

陰体に属する蜥蜴の邪妖を束ねる総帥。
よって、邪妖退治の際は必ず呼び出しての連れてゆかれる補佐役だのに。
その頼もしい腕っ節だけじゃあなく、
陰の負力への探知や、抗性障壁という結界を張るのへも助けになると、
だからと訊いただけなのにね。
なんでまた、怒ったように視線を逸らしての、
曖昧なお言いようをなさるのか。

 「おやかま様vv」

こちらは素直に“お帰りなさいvv”と、
やっとその姿を見つけられたお方へ、
にこぱと笑いかけての手を伸ばした くうちゃんだったが、

  ―― あや?

はらりふわふわ、何か小さなものが舞っているのへ、
視線と注意を奪われて、動きが止まる。
濡れ縁までをお運びになりながら、
その肩から乱暴に剥いだ すとーるの下、
蛭魔が羽織ってた狩衣についてたものを、風が舞い上げたらしくって。

 「あ、さくらだ。」
 「んん?」

自分でも覚えがなかったか、
セナの声へと顔を上げた蛭魔もまた、
弟子の視線を追ってから、初めて気づいたようなお顔になった。

 「川辺から飛んで来たんじゃね?」
 「山桜だってまだ散り始めちゃあいませんて。」

大方 お外のどこかで、咲き初めし枝に引っかけでもしたのだろうに、
覚えがねぇなと途惚けておいで。
そんな間にも、小さな花びらの方は彼らから離れての宙をゆこうとしており。
小さいながらも花弁ではあるせいだろう、
すとんとは落ちず、ゆらゆらと揺れるでもなく。
細かく震えもってのふるふると、
可憐な蝶々のように宙にいて、

 「はやや。」

捕まえようとしてか、伸ばされた小さな手。
だが、花びらは微妙に紙一重な先へと泳いで逃げる。
えいえいと手を振るだけでは足りぬと気づいたか、
踵を上げて、背伸びをしてと、
さらに手を伸べてみた仔ギツネさんだったけれど。
その動きが風を生み、花びらはますますのこと逃げてしまい。
それを もちょっと腕の長いお館様が、
こっちへ来よと大向こうから扇いでやれば、

 「………あ。」
 「はやvv」

花びらは見事、くうちゃんの柔らかそうなお鼻の上へと舞い降りて。
視野の縁が淡い緋色になったのが嬉しいか、
すぐには摘ままず、にゃは〜vvと微笑うのが愛らしい。

 「どこに咲いてたんですか?」

此処いらじゃあまだ、蕾だって堅い。
よほどの南か、陽あたりのいいところでしょかと、
セナくんが訊くのへ、さあなと首を傾げて見せて、

 「それよか、眠い。」

今から寝るぞと、宣言なさったその後へ、
いっちょにネンネということか、待って待ってと小さいのが追いかけてって。
それへと気づいて、そ〜れと抱え上げておやりなお姿が、
花冷えの寒の中、金色の縁取りをまとった影になっての、
何とも言えぬ和やかな構図。
そのまま大人しく懐ろに収まった、温かな仔ギツネさんを添い寝の供に。
広間の奥の寝間へと向かわれたお師匠様を見送った、
そんなセナくんの足元へは。
くうちゃんのお鼻から落ちたか、
さっきの花びらが、濃色の板の間のお廊下へと舞い降りており。
間近に来たる花王の前知らせ。
いよいよの絢爛たる春が、もうすぐそこまで来ておりますよ?





  〜 Fine 〜  08.3.26.


  *時々、本館の某“ぱぴぃ”めいてしまうよになった
   年の差 番外篇でございまして。
(苦笑)
   おやかま様、一緒に帰ると何か見透かされるとでも思って、
   葉柱さんへは“後から戻れ”とか言ったのかもで…。
   何があったのかしらねぇ。/////////

   何はともあれ、さくらの季節vv
   別にお花見の予定とかがなくても、
   見事に咲いてるのを見ると、何とはなくウキウキしちゃいますよね?
   神戸では阪急沿線の桜がまた、
   もの凄い密度で咲くんですよ、ええvv
   私なんてガッコや会社って予定がなけりゃあ、
   いつまでも見てたかったほどでしたものvv
   そういった毎年恒例の桜のほかに、
   身近にもなかったかなぁ?と、見回してみるのは いかがでましょvv

  めーるふぉーむvv ぽちっとなvv

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